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このような遺言書を作っていませんか?

2023.04.01

はじめに

「●●証券会社の株式や投資信託等は、相続人である子供2人へ各2分の1の割合により相続させる」といった内容の公正証書遺言。子供2人で均等に分けられる為、一見何の問題も無いように見えます。しかしながら、相続手続きにおいては問題が出てくる場合があります。今回は実際に弊社で行った遺言執行業務についてお話します。

 

どのような遺言書だった?

自宅不動産、賃貸不動産:長男

A銀行の預金:長男

B銀行~J銀行の預金:長男、二男で各2分の1ずつ

A証券会社~E証券会社の国内株式、国内債券、国内投信の全部:長男、二男で各2分の1ずつ

残された相続人の生活を想い、不動産とA銀行の預金は長男。そして残りの金融資産を子供2人で均等に相続させる内容になっていました。財産の承継先を指定した部分は良かったのですが、実務上は様々な問題点がありました。

 

実務上の問題点

1、銀行、証券会社の口座が多すぎる

銀行、証券会社の数だけ解約や口座開設の手続きが必要になります。銀行の場合は、口座の解約手続きをするだけで済みます。しかし証券会社の場合、一般的には、相続人名義での証券口座の新規開設、被相続人の証券口座の閉鎖手続き、被相続人の保有銘柄の移管といった流れになります。口座開設については、郵送で対応可能な証券会社もあります。しかし、口座開設もしくは銘柄の移管に際して、相続人自身が窓口にて説明を受ける必要がある証券会社もあります。証券会社の営業時間は、基本平日の日中の為、お仕事をしている方は休みを取らないと手続きが難しい等時間の制約があります。

2、残高証明書、取引履歴等の書類集めが大変

例えば、相続税がかかる程度の相続財産があった場合。相続税申告には、被相続人が亡くなった日時点の残高証明書及び過去5年程度の取引履歴が必要になります。前者は相続発生時点における財産額を確定させるためで、後者は過去の資金の流れを把握するためになります。これも銀行や証券会社の数だけ必要になる為、書類の発行を依頼する手間や発行手数料等の費用負担も発生します。たとえ手続き時点で残高が0円であっても、相続発生日時点で0円とは限らないからです。また、過去の資金の流れにおいて不明金などがあれば、相続人への聞き取り調査が必要な場合もあります。

3、遺言書通りに分けられない

株式取引における最低売買単位は、以前は、1株・10株・50株・100株等8種類ありましたが、投資家の利便性向上の為、2018年10月1日の取引より売買単位が100株に統一されています。仮に、保有銘柄の中に100株や150株といったものがあれば2人で分けることができません。また、300株の場合は2人で分けることはできますが、片方は200株、一方は100株のように偏りが生じます。投資信託の場合は口数で分けることができますが、端数がでる場合は同様に2人で均等に分けることができません。また、第●●●回発行社債等は、そもそも分けることができません。従って、遺言書があったとしても結果、相続人による遺産分割協議が必要になります。配当がある銘柄、値下がりしている銘柄、大企業の銘柄等、相続人による話し合いが簡単にまとまらない場合もあります。当然に、遺言執行者が決定できるものではなく、銘柄配分は相続人に委ねることとなります。

 

どのようにすればよかったのか

1、銀行、証券会社を整理する

金融機関とのお付き合いもあると思いますが、残された相続人の為に、お元気なうちに取引のある銀行や証券会社を絞り、それ以外は解約や口座閉鎖をすることをお勧めします。将来の相続手続きにおいて金融機関の数だけ相続人の負担が大きくなります。

なお、株や投信には価格変動リスクがありますので、それに応じた臨機応変な対応が望まれます。ところが、相続開始前に認知症等で判断能力の低下・喪失を招くケースが年々増えているため、価格変動への対応が本人ではできなくなる可能性があります。そのような時に家族が代わりに対応できる制度があるのか、どこまでの対応が可能なのかなど、事前に金融機関に確認が必要でしょう。また、家族が代わりに一定程度対応できる制度があったとしても、家族に「金融リテラシー」や「商品への理解」等がなければ実質的に対応は困難となります。更に、そのような家族(相続人)は、株や投信をそのまま承継するのではなく現金で相続したいという希望を持つ場合が大変多いものです。

したがって、家族の意向も事前によく確認をしたうえで、場合によっては被相続人が生前に全て売却したり、相続開始後に解約・現金化して相続させる「換価分割」を遺言書で指定したりすることも、検討すべきでしょう。

2、遺言書は証券会社ごと、銘柄ごとに指定する

証券会社は長男。B証券会社は二男等、証券会社ごとに指定する方法が最適であると思います。証券取引をしていると、保有銘柄の売却や新しい銘柄の購入等、資産が変動する可能性があります。証券会社毎に金額の差が出た場合は、生前に均等になるように保有金額を調整することで将来の相続にも備えることができます。一方で、A証券会社のうち×株式は長男、Z株式は二男等銘柄を指定する方法もありますが、遺言書を作成した後に、保有資産が変動することも想定される為、前者の方法が良いと思います。

おわりに

遺言書は、将来財産が変化した場合でも、なるべく作り替えをしなくても良いように作成するのが基本です。遺言書を作成した後でも、遺言書記載の株式や投信を売却するのは自由です。売却した後の現金は、銀行口座や証券会社内にあるMRFに入る為、将来の財産変動を想定した遺言書を検討することが大切です。資産形成が叫ばれている今、株式や投信等運用をされている方は多くいらっしゃいます。残された家族が困らないよう、遺言書をすでに作成されている方は今一度内容の点検をされてはいかがでしょうか。また、これから遺言書の作成を検討されている方は、上記の点を考慮しながら作成されることをお勧めします。

弊社では、提携の弁護士・司法書士とともに公正証書遺言の作成支援業務を行っています。
遺言書に関して、ご質問やご不安がある方はいつでもご相談ください。

 

 

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筆者紹介

田ノ上 彰
福岡相続サポートセンター
上級相続支援コンサルタント

相続に関するお悩みやご相談内容は多岐に渡ります。ご家庭ごとに歴史があり、ご事情も様々です。みなさまの想いをお聴きし、次世代へと繋いでいけるよう、真摯に向き合い取り組んでおります。ともに考え実行し、一つでも対策を進展させることがとても大切です。まずはお気軽にご相談下さい。

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